ラブは生涯、食欲が旺盛だった。いつもお腹を空かせているように見えたが、犬も食べ過ぎはよくないと、いつも父は適量をラブに与えていた。
ラブがまだ若かった頃、実家に僕一人しかいなかったとき、こっそりとたんまり食べさせたことがある。ラブさん(ラブと散歩)しながら、たまには腹いっぱい食べさせてやろうと思いついた。皿の底に普段はあげないビスケットを敷き詰め、その上にいつもより多めのドッグフードを盛った。さらに、「食後のデザート」と言って大根だったかキャベツだったかの切れ端をあげた。
さすがのラブもこの時は、バクバク食べながら、アレっ?という顔をしていた。「いつもより多いな。」と言わんばかりのラブの表情に僕は満足した。ラブなので食べ残すことはなく、きれいに平らげた後、「ゲフー」とか言いながらしばらくウロウロ歩いていた。
翌日、母から「おまえ、昨日ラブに変なものくれた?」と聞かれた。「くれてないけど、くれ過ぎたかも。」と答えた。「だからラブはぐったりしてるのか。そんなにやるんじゃないよ。」と怒られた。

後年、実家に行くと明里も一緒にラブさんできるようになった。その頃のラブは既に晩年で、手綱を振り払って走り出すというようなことはなくなっていた。幼い明里が手綱を握っていてもラブに引っ張られることはなく、安心して見ていられた。(しかし、明里の証言によると、一度、ラブが急に走り出して転んだことがあったという。その場面を僕は見ていない。)

ラブさんコースは決まっている訳ではなかった。少なくとも僕との散歩だとラブは、自分が行きたい方向へ僕を引っ張るように歩いていった。
ある日も、ラブが歩きたいように散歩をしていた。すると突然、ラブが道路沿いの畑の大根をかじり出した。油断も隙もあったもんじゃない、とはこのことだった。せっかく家族三人と一緒に散歩を堪能していたのに、ラブの行動にとても慌てさせられた。手綱をいくら引っ張っても、ラブは大根をくわえて放さなかった。
妻と明里の記憶だと、ラブが畑から大根をほじくりだして、あっという間に食べてしまったことになっている。
でも、僕には、形が悪かったために棄ててあった大根のように見えた。だから、僕はラブが大根泥棒ではないと信じている。
若林泰弘