きれいな夕陽の写真を撮りたくて、明里を誘ってふたりで堂ヶ島へ行った時のこと。

 冬の西伊豆は、風が強く、波が荒れることが多いみたいだ。それでも埼玉で生まれ育った僕は海が見たい。海を見れば、しきりにカメラのシャッターを押す。と言っても、本格的な一眼レフカメラを持っているわけではない。安価なデジカメしか持っておらず、そもそもカメラの違いをわかっていない。「安いコンパクトカメラでも、いい写真を撮る」という気概を持って歩き回っている。

 こんな気持ちが空回りして、つい風景写真を撮るのに夢中になり、幼かった明里を置いてけぼりにしてしまった。堂ヶ島公園で明里とはぐれてしまい、見つけた時、明里は泣きそうな顔でいじけていた。離れていたのは5~6分だったような気がするが、明里は嫌だったようだ。帰宅後、明里から話を聞いた妻になじられた。

 この件があってから明里を写真撮影に誘っても拒まれるようになった。溺愛する娘であっても、一瞬で信頼を失ってしまうようだ。なんとか明里の写真を撮ってこれたのは、「ジュースを買ってあげるから。」とか、昔の誘拐犯みたいなことを言って頼んでいたからだ。でも、以前はカメラを向けると可愛らしくポーズをとってくれたものだが、だんだん素っ気なくなっている。

昼の堂ヶ島フェリー乗り場

 高校生になった明里はジュースではついてこない。頼むと異様に高くつくので、最近撮るのはもっぱら風景写真ばかりとなっている。

若林泰弘

投稿者 akari