明里が自宅近くの保育園に通っていた頃、僕は不動産会社に営業として勤めており、シフト上、毎週火曜日が定休日だった。その頃の僕は、会社の上司や同僚とのつきあいで居酒屋で飲んでは終電で帰る日がしょっちゅうあった。特に休み前の月曜日は、ほぼ間違いなく終電で帰っていたので、火曜日は自宅でゆっくりしていたかった。契約などが入れば休みでも出勤していたし。

 夫婦共働きであっても、どちらかが休みで自宅にいる日は、本来なら子供を保育園にあずけるのは憚られるところだ。火曜日は多少の後ろめたさを感じつつも明里には保育園へ行ってもらった。何より明里は保育園が楽しくて仕方なかったはずなのだ。

 こんな風に自分に言い訳して火曜日は一人で休んでいたのだが、ある時ふと、明里の様子を見に行きたい衝動に駆られた。だが、堂々と見に行くと明里を迎えに来たと思われてしまう。それに明里が保育園で過ごす自然体の姿を見てみたい。保育園内にいる間は子供の様子を窺うことは難しいが、担任の先生の引率で保育園近くの公園で遊んでいる時間があることを知り、その時なら見ることができる。

 早速、行ってみた。

 いたいた。先生二人と「いちご組」の子供たちだ。

 公園の植え込みに隠れて、こんな写真を撮っている姿は完全に不審者だ。だが、自分では気付いていない。明里の姿をとらえることに夢中になっていると、若い女性が担任の先生に話しかけているのが目に入った。近所の知り合いか何かかなとカメラ越しに見ていると、その女性はこちらを指さしている。

 しまった。見つかった。いや、見つかったどころではない。先生を盗撮しているストーカーか変質者と疑われているではないか。あわてて僕は、植え込みから姿を出して先生に向かって頭を下げた。

 先生は僕を見つけるとすぐに察してくれたようで、笑いながら女性に説明してくれていた。そして、その女性は、訝しげな表情で僕の方を見ながら立ち去って行った。

 危なかった。その女性が東入間警察署にでも通報していたら、僕はポンポンと後ろから肩を叩かれ、連行されていたかもしれない。警察官に連行されていく僕の後ろ姿を明里に見られるようなことにならなくてよかった。先生が僕のことを覚えてくれていたことに感謝した。

 それに、俯瞰すれば「地域住民の監視」を実感したし、不審者から女性や子供を守る「声かけ」という防犯行動をその女性がとってくれたとも言える。なので、しばらく保育園で笑いのネタにされたとしても僕は逆恨みなんてしていない。

 前回の投稿で、近い将来、明里のバイト先を探し出して隠れて見に行く決意をしたばかりではあるが、僕の場合、隠れて見に行くのはやめておいた方がよさそうだ。

若林泰弘

投稿者 akari