パパが珍しく台所に立っている。

「男子厨房に入らず」の家庭で育った、とパパは偉そうに言ってるけど、実態は怪しい。単に料理が下手なだけなんじゃないかと私は見ている。パパが台所で手伝おうとして、ママに邪険にされてるのをよく目にするし。て言うか、パパがいると邪魔なんで、ママにあしらわれているんじゃないか?

そのパパが「あちー」とか「あちち」とか言いながら、天ぷらを揚げている。油がはねて熱いらしい。一方、ばあちゃんは平然と天ぷらを揚げているのがすごい。「ばあちゃんは、面の皮といっしょに手の皮も厚くなったんだ」とパパは憎まれ口を叩いているけど、違うと思う。

確かに、ばあちゃんは面の皮が厚いかもしれない。でも、ばあちゃんの手は「働く手」なんだと思う。長年、料理や裁縫、掃除などの家事をこなしてきた手なんだ。今の私の手は、小さく、細く、きれいだけれど、いつか「働く手」に私もなりたい。
なんて綺麗ごとを言ってしまった。
そういう気がないこともないけど、やっぱり「美」を追求したいのが女子高生としての本音だ。
“ Girls, be beautiful ! And work hard ! ”
こんなことを誰かが言ってたし。
パパでないことは確か。
そうそう、天ぷらを揚げてたんだ。
ばあちゃんの「天ぷら」は、ばあちゃんの「手打ちうどん」といっしょに食べるととてもおいしい。
若林明里