牛原山へ行くときは大抵、車で上るが、かなり急勾配な坂道だ。対向車が来たら嫌だなと思う狭い場所もある。そこで、ある夏休みの日、歩いて登ってみようと衝動的に思いついた。義父母宅周辺を散歩がてら、ふもとの伊那下神社へ参拝に行った時、登山口があるのを見つけたのだ。それまで歩いて登るつもりなど全くなかったので、その時の格好はTシャツに短パン、サンダルだった。

 ひょっとして「あじさいの丘」へ行く近道なんじゃないかと思い、散歩の延長くらいの軽い気持ちで登り始めたのが甘かった。真夏だったので草木が生い茂って獣道みたいになっており、当然、蚊やブヨに刺されまくった。低い山だからすぐ登れると思ったが、そんなことはなく、中年の運動不足な体にはきつかった。汗だく・息切れ・頭クラクラになりながら辿り着いて眺めた景色は記憶に残っていない。

 この失敗から、冬ならよかろうと、ある冬休みの日に明里を誘って登ってみた。写真の記録によれば、明里は小学1年生だった。夏に登った時と比べればかなりマシだったが、息切れすることに変わりはない。明里は驚くほど軽快に、すたこら先を歩いて行った。「パパ、大丈夫~?」と明里は振り返りながら遅れる僕に声をかけた。「ぉ~。」と息絶え絶えに答えながら僕は娘の成長を感じた。ではなく、結構ショックだった。

「疲れたから、おんぶして~。」なんて言い出さないだろうな、と思いながら登り始めた自分が恥ずかしい。かつては明里と出かけるたびに、おんぶをせがまれ、「しょうがねぇなぁ。」とか言いながら内心うれしく感じた頃を懐かしく思った。

当時、牛原山にはアスレチックなどの遊具があった。

僕が、ぜーはー言って呼吸を整えている中、明里は全く疲れを見せずに遊んでいた。

このとき以来、僕は牛原山を歩いて登っていない。

若林泰弘

投稿者 akari